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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)11142号 判決

原告 志村忠一

〈ほか三名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 田中旭

被告 南山柏茂

右訴訟代理人弁護士 谷川哲也

同 萩原克虎

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

一  申立

原告は、新宿簡易裁判所昭和四一年(ヘ)第一一号公示催告申立事件について、同裁判所が昭和四一年九月二二日言渡した別紙目録記載の約束手形の無効を宣言する旨の除権判決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。との判決を求める。

被告は、主文同旨の判決を求める。

二  請求原因

(一)  被告は、昭和四一年三月一日新宿簡易裁判所に対し、被告が昭和四一年二月一七日東京都新宿区において、別紙目録記載の約束手形四通(以下本件手形という)を紛失したとして公示催告の申立をし、同年九月二二日公示催告期日までに権利を届け出て、かつ証書を提出した者がないと述べ、除権判決を求める旨申立て、同裁判所は同日請求の趣旨記載のとおりの除権判決を言渡した。

(二)  右除権判決は、事実の誤認に基づくものであるから、民事訴訟法第七七四条第二項第一号により取り消さるべきである。

すなわち、被告は、昭和四〇年八月三日小竹兼平に対し本件手形を振出し交付したもので、紛失したというのは虚偽である。

(三)  小竹兼平は、昭和四〇年八月三日本件手形のうち金二〇〇万円の約束手形一通を原告新井儀作に、金二〇〇万円の約束手形一通を原告長谷川正雄に裏書譲渡し、金五〇〇万円の約束手形一通を丸広産業株式会社に裏書譲渡し、同株式会社はこれを原告藤貫五郎に裏書譲渡し、金二〇〇万円の約束手形一通を小口淳正に裏書譲渡し、同人はこれを株式会社山形屋に、同会社はこれを原告志村忠一に順次裏書譲渡し、原告らはいずれも右各約束手形を所持している。原告らは昭和四一年一一月三一日支払のため右各手形を呈示して、前記除権判決の存在を知った。

三  請求原因事実の認否

第一項の事実は認める。第二項の事実を否認する。第三項の事実は知らない。

四  証拠≪省略≫

理由

請求原因第一項記載の事実は、当事者間に争いない。

表面の支払期日と受取人欄の記載は証人小口知広の証言により成立を認め、その余の表面部分の成立に争いない甲第三ないし第六号に同証言を総合すれば、被告は昭和四〇年八月三日小竹兼平に対し本件手形を振出して交付したことが認められる。右認定に対する被告本人尋問の結果は措信しない。

右によれば、被告は本件手形を紛失したものではないから、これを紛失したものとして本件手形の無効を宣言した除権判決は事実を誤認したもので違法である。しかし民事訴訟法第七七四条第二項第一号にいう「法律ニ於テ公示催告手続ヲ許ス場合ニ非サルトキ」とは、法律で公示催告を許している規定のない請求、権利又は証書について公示催告手続をした場合を指す。これに反し催告裁判所が事実上の錯誤により公示催告手続の原因である事実を不当に確定して公示催告手続を実施した場合のように、事実誤認により除権判決をした場合は、右規定に該当しない。すなわち事実誤認は、除権判決に対する不服申立の原因とはならないのである。これにより無効を宣言された証書の所持人は、損害賠償又は不当利得の訴により救済を求めるより外ない。

よって原告らの請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩村弘雄)

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